温湿布と冷湿布

整形外科外来での会話。患者さん「寒くなってきたので今日は温湿布を下さい」、医師「ハイ、分かりました。温湿布に変更しておきます」。医学的にはこれは変なやりとりです。今回は湿布について解説します。病院で処方する、いわゆる湿布には白いやや厚めのシート状のパップ剤と薄いテープ剤があります。最近は最寄りの薬局で類似の湿布を買うことができます。湿布の歴史は古く、起源は紀元前のバビロニア、ギリシャ時代に遡るそうです。日本でも古来から罨法として、膏薬を布に塗り局所に当てる温感療法が用いられていて、これが湿布治療のルーツです。罨法とは冷、温刺激を病巣局所もしくは全身に与え、循環系や神経系の病気好転、自覚症状の改善を図る療法です。しかし、1985年頃から、痛み止めのケトプロフェンやインドメサシンを含んだ湿布薬(経皮吸収性貼付薬)が出回るようになり、それまでの冷・温湿布の区別も無くなりました。但し、昔から馴染みのある湿布という名称が残ったのが現状で、トウガラシ成分を基剤に混ぜ、貼った時に発熱作用を有する製剤を温湿布と呼んでいる様です。正しくは温感タイプの貼付剤です。貼った瞬間に冷たい感じがするので冷湿布と考えている方が多いと思いますが、現在のいわゆる湿布(整形外科で処方する貼り薬)は皮膚を通して痛み止めが作用するのであり、局所を冷やしたり温める効果はありません。薬理作用上、冷湿布、温湿布の区別はないと言うのが正解です。最初の会話では、高齢の患者さんが湿布を使い続けて、冷やっとするから変えて欲しとの要求であり、一々、説明をせずに希望通り処方した経緯がありますが、気持ちの良い方を使って良いと言うことです。最近の貼り薬は粘着力が強く、時にかぶれたり、薬剤の性質上、喘息発作を起こす、妊婦には使用できないなどの制約があります。貼り薬≒湿布は副作用が少ないというイメージで気軽に処方する傾向にありましたが、たかが湿布、されど湿布です。正しく使用することが大事です。(財界さっぽろ2018.2号)

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