ヒグマも住む街
藻岩の山麓通り付近にヒグマが出たというニュースが10月6日に流れ、それ以降、家の近くの藻岩山登山口、旭山公園出入り口は黄色いテープが張られ立ち入り禁止である。数年前から毎朝、今年で10歳になった愛犬(ラン)と散歩するのを日課にしていて四季折々の風景を楽しんできた。冬は旭山公園から日の出が見れ、大雪の後など新雪をかき分けて登るのは快感であり、犬も童謡の歌詞通り、雪の中を喜び駆けずり回る。実は6日の朝はランの様子が普段と違った。いつものコースを行きたがらず途中で引き返してきた。数年前に比べ飼い主も体力が落ち、時々、近道をするようになっていたので、「今日は楽をした」と思って帰宅した。しかし、帰宅後テレビでヒグマのニュースを知り、ランが熊を避けて戻ったのか?と思ったりもした。今回のヒグマ騒動ではいつまで入山禁止なのだろうか、何を基準として入山禁止を解除するのか?藻岩登山を楽しみにしている熟年の人達はどうするのだろう?など考えながら、昭和40年頃、藻岩山の仏舎利塔(平和の塔)にヒグマが出た頃のことを思い出していた。
当時中学生だった私は札幌に転校して間もない頃で藻岩山ロープウェイの近くに住んでいた。8人乗りだった箱型のロープウェイを利用してよく市民スキー場へ行き、帰りは本来滑走禁止のロープウェイ下の北斜面(逆、くの字に見えた)を滑ってきた。私はスキーが余り盛んでない町からの転校生だったので、最初の頃は必死で降りてきたが、当時の仲間は北斜面を何分で降りてくるかを自慢していた。今は山も深くなり、ロープウェイ下は滑れない。ある日、新聞記事で近所にヒグマが出たことを知ったが、確か集団下校はなかった。ヒグマは中山峠から山伝いに来たんだろうと友人か先生が話していたのを覚えている。当時の新聞にはヒグマがいた平和塔の写真が出ていた。その後、まだ山麓通りがない頃、今の伏見2丁目付近の山道を近道にして高校に通った。
今回のニュースでは目撃情報の中に南19条西10丁目というのがあり、これは石山通りだから有り得ないと思った。写真でもなければ目撃情報だけでは信憑性に欠ける。都会の新聞には『札幌市の中心部に10月6日以降、ヒグマが相次いで出没している。観光名所の時計台から西へわずか3キロの円山地区と南側の藻岩山の麓、転勤族のマンションも集中する住宅街。学校は集団下校を実施し、動物園や野球場にはキャンセルが出ている。連休中も警戒が続く』と紹介されていた。
ヒグマは以前から藻岩山中には居たと思う。実際、小林峠や盤渓、西野ではヒグマの足跡、糞などの情報が毎年寄せられているらしい。札幌市にはヒグマ対策委員会なるものが以前からあり、市のホームページで市民まちづくり局地域振興部区政課が担当部署であることを知った。今回は都心からわずか3キロの住宅街にヒグマが出たということがワイドショーネタとして価値があったようだが、誰も被害に遭っていないのに大騒ぎするのは現代の特徴。地元新聞には『札幌市は6日午後、道警や中央区、市教育委員会などと緊急のヒグマ対策委員会を開き、対応策を協議。道警が周辺を重点的にパトロールし、市役所などは夜間も職員が常駐して対応することにした。また、クマの餌にならないように生ごみを早めに収集することも決めた。猟友会とも連携し、駆除も視野に入れながら取り組む方針だ。周辺の学校も対応に追われた。市教委によると、区内では6日、目撃情報があった地域を中心に小学校で集団下校を実施した。中学1年生の子どもがいる近くの女性は「子どもが塾に通っていて、帰りが夜になることがあるから心配。暗い場所には行かないように注意したい」と話した。市によると、過去5年間の目撃と痕跡を合わせた市内のヒグマ出没件数は、一昨年度までは50〜70件ほどだったが、2010年度に114件と急増。今年度は10月5日現在で130件と、昨年度の倍以上のペースで増えている』とのこと。何やら犯罪者かヤクザが近くにいて、それを警戒しているような記事でおかしい。
本州でも昨年、民家の庭にツキノワグマが出たり、他にもサルのニュースもあったが、山里に家が増え、更に天候不順で餌が不足し、山から動物たちが下りて来たと解説されていた。道内のヒグマの生息数は2000年の調査時点で推定1800〜3600頭で、その後、更に増えているらしいが意外と少ないと思った。札幌市街地でのヒグマ出没の原因は宅地開発などでヒグマが生息する山林と市街地が接近し、好奇心旺盛な若いヒグマが山林から出てきたこと、昨年はどんぐりなど餌が豊富で子ぐまが多く生まれたが、今年は不作で子ぐまの餌が不足したことなど、昨年の本州のツキノワグマ出没と似た原因らしい。恵庭で10月6日に射殺されたヒグマの胃には何も入っていなかったそうで、何ともかわいそうな話。
専門家によれば『好奇心の強いヒグマより、残飯などを求めてやってくるヒグマが危ない。自然にない人工の味を知ったヒグマは人間を恐れない習性があるため、人が捨てた生ゴミや残飯がヒグマの餌になることを防ぐ対策が必要』とのこと。熊よけの鈴と一万円以上する熊撃退用スプレーの売り上げが前年同期比5割増しのペースで売れているそうだが、ヒグマとの事故をなくすには出会わないことが一番で、対策として、市の情報サイトには以下のアドバイスがあった。
① 薄暗いときなどは山へ近づかないようにしましょう。
② ゴミを出すときは必ず決められたルールを守りましょう。
③ 痕跡には十分注意しましょう。
④ 音を出しながら歩きましょう。
⑤ ヒグマ出没情報に気をつけましょう。
しかし、ヒグマに遭遇したらどうしたらいいのか、についてのアドバイスはなかった。できればヒグマは駆除されずに山に戻り、無事に冬眠に入ることが望ましい。これも、ちょっと危ない人はそーっとしておこう。怖いおにいさんとは目を合わさない。気分を損ねずにお引取り願うというやり方に似ている。
ヒグマは北海道の方言で山親父と呼ばれ、『出てきた出てきた山親父・・・』のテーマソングで親しまれた煎餅の登録商標になっている。最近は製菓会社の競争が激しいため山親父の会社は苦戦しているが、老舗のこの会社は大正10年創業で山親父は昭和5年からあるとか。少し前まで北海道みやげの定番は白い恋人だったが、元祖、北海道みやげは山親父だった。この山親父の歌には『・・スキーに乗った山親父・・』 という歌詞があり、煎餅にも鮭を担いでスキーをしているクマがモチーフになっている。しばらく忘れていたが、今回のヒグマ騒ぎで急に懐かしくなり、この老舗が存続していること、山親父が相変わらず黒筒の缶に入って売られていることを改めて確認した。
10月15日の朝には、巡回の結果、ヒグマの足跡や糞が見つからず、旭山公園は時間を決めて、日中一部、開放された。藻岩山の入山禁止はいつ解除になるのだろう。目撃情報が減り、無事、誰も被害に遭わずに冬を迎え、ヒグマのニュースを忘れた頃、徐々に解除されるのだろう。元々、動物生息地に人間が住み出したのだから、どこかで遭遇することはあり得る。ヒグマにマナーを守れと要求するのは無理だから、せめて人間が食べ散らかさない、残飯を放置しないなどのマナーを守って、うまく共存したら良いだろう。札幌をヒグマも住む街、動物と共存している街としてPRしたら面白いだろうと思った。
(佐久間 隆 平成23年11月記)